レビュー:体幹と骨盤の評価と運動療法
講義を聞いて、すぐにその先生の本を買ったのは、初めてかもしれない。
鈴木先生の講義は、僕の治療観に新しい風を吹き込む知見に富んでいた。
【運動療法において、体幹筋のアプローチは重要である。しかし、体幹筋のアプローチの方法は、セラピストによって大きく異なり、確立されていないと言わざるをえない。(中略)そのような状況を変えるためには、体幹筋の性質や機能を理解することが重要となる。 本書より引用】
本書では、体幹筋の機能が、解剖学、運動学、筋電図学的事実から述べられ、さらに、それを踏まえた運動療法の工夫について提案されている。
私の身体操作探究と運動療法に大いに役立った。
本書(鈴木先生)の優れている点として、
・筋の機能、運動と現象の表現がスマート。
・筋の機能について、まず、解剖学、運動学の観点から、普通に推察する。
を挙げさせていただきたい。
筋の機能は、求心性収縮なのか、遠心性なのか、静止性なのか。
関節の「運動」により、身体部位の動き、すなわち「現象」が生じる。
このように、表現を明確に徹底することで、体幹・骨盤の現象における体幹筋の機能を理解する、という本書の目的が達せられている。
現象において、どの関節がどんな運動をするのか、あるいはしないのか、という姿勢・動作分析の上で、
その関節がその運動をすることから、その関節のその運動に働く筋の機能について推察することができる。
このときに、必要なのが、筋の機能について、まず、解剖学、運動学の観点から、普通に推察する、ということである。
普通に推察、とは、できそうでいて、なかなかできないことである。
仙腸関節に働く剪断力と、それを防ぐための筋活動とか、
従重力に関節が運動するならば、短縮位になる筋は活動せず、伸張位になる筋が遠心性の制御をする、というのは、この本を読まなければ、私は一生気づけなかったかもしれない。
そして、このことを知ったおかけで、私は身体操作探究を飛躍的に進化させることができた。
さらに、その気づきを、私の身体操作探究の恩人に相談したところ、
遠心性制御もなるべく小さくするアライメントを探究する重要性について教示していただけた。
現在、もう少しで、正しい「起勢」ができそうである。
話を本書に戻すと(厳密には身体操作探究とは関連するのだが)、
本書は、健常者を対象にした体幹筋の機能の筋電図研究から得られた知見から、患者への運動療法を提案している。
患者とは、健常者の身体機能を一時的に喪失しているのであるから、
動作能力回復にあたっては、「現象」において健常者が示す体幹筋の機能を賦活すればいい、という論理は間違いないと思う。
しかし一方で、もう一つの視点で患者を定義するとどうだろう。
患者とは、健常者よりも身体機能が低下しているのであれば、
動作能力の(再)獲得にあたっては、健常者よりも効率的な「動き方」と、その現象に必要な体幹筋の使い方を学習させる、というのはどうであろうか。
たとえば、宮本武蔵の姿勢。
【島田美術館蔵 宮本武蔵像】
私なりの分析では、大腰筋を働かせたままで、腸骨筋を従重力に緩めているために、
L2を中心とした腰椎前弯と股関節屈曲が生じ、
姿勢保持のための脊柱筋の活動を最小限にするために、
腰椎より上の脊椎・胸郭をまっすぐ立てており、
大腰筋の反応を落とさず、殿筋や内転筋が過剰に緊張しないように、
脚の幅は腰より広げずに、足先もまっすぐ前を向かせ、仙骨を少し後傾させている。
姿勢保持のために硬く収縮している筋肉がなく、ゆらゆらする姿勢ではないかと推察できる。
私は、太極拳を学び、患者に還元できるように日々、身体操作を探究しているが、
科学が足りないし、表現力もお粗末である。
本書に参加されたような方々が、身体操作の達人の動きを科学し、これを賦活、学習させる運動療法を開発されたなら、世の多くの身体に障害を有する方の動作能力を向上させてあげられるのではないかと、わくわくさせられた。
理学療法士たちには、ぜひご一読いただきたい。