理学療法と身体操作の気づきと雑感

理学療法と身体操作について気づいたことや、ふと思ったこと、なんか言いたくなったことなどを書き留めてゆきます。個人的見解が多いので、ご了承ください。

母趾球で踏ん張らない、膝を抜く!

間違っていた!

 

僕は、以前ブログの中で、効率的な動きのベースとは、

体幹の前額面と、骨盤・支持面の水平面で∞を描く力の流れ」

だと言った。

masuipt.hatenablog.com

だが、最近得た気づきでは、「下部体幹の前額面と、骨盤・支持面の水平面で∞を描く」だ。

 

それに、特に支持面の∞の形が違う。

こうだ。

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簡単に絵に描けるような∞の形ではなく、

何よりも、母趾球を通らないようにすることが大事だ。


まず、つま先は前に倒れるのを防ぐものであり、つま先で踏ん張っても、前には進みにくい、という認識が必要になる。


それに対し、踵は後ろに倒れるのを防ぐものであるため、すなわち踵で踏ん張れば前に進む力が得られる。


そして、踵で踏んだ力から効率的に前方推進力を得るには、膝を抜く必要がある。

膝を抜くには、母趾球で踏ん張ってはいけないのだ。

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マイケルジョーダンは、膝を抜くことに加えて、遊脚する前の支持脚側の骨盤が前に出ている(対側回旋)。

 

これは、遊脚終期の股関節外旋すると、骨盤が同側回旋し、対側の遊脚がスムースに起こる、ということを理解する必要がある。(図左)

それに対し、遊脚終期に股関節内旋すると、骨盤が対側回旋し、対側の遊脚の阻害になる。(図右)

股関節回旋に伴う、骨盤の回旋は、靭帯の作用である。(筋の作用ではない。)

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つまり、「下部体幹の前額面と、骨盤・支持面の水平面で∞を描く」とは、踵で踏んで、膝の抜きと、骨盤回旋から遊脚する、歩みを促通することができるのだ。

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こういったことは、文章で伝えるだけでなく、身体を使って伝える必要があるので、そういうこともいつかやりたいが、物事には順序がある。

 

歩きやすいコンディション作りを学ぶためには、まずは、基本的なスキルとして、正しい関節の動かし方、筋の触れ方ができるようになった上で、姿勢制御と身体操作を机上と身体で学ばなければならない。

 

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正解はシンプル☆

その刺激は組織をどうするのか。

それを考えれば考えるほど、

組織の治療対象症候に対する介入は、よりシンプルになる。

 

振動は、軟部組織内のプロテオグリカンの保水性を高め、

すなわち柔軟性を改善させる。

ぐりぐり揉む必要はない。

関節の周囲の組織なら、肢節を揺らせばいいし、

筋腹中央付近なら、直接触れて振動させればいい。

 

非神経原性筋収縮は、短縮した筋節を伸長位にしなくては意味がない。

硬結部位に圧迫を加えながらストレッチまたは関節運動を繰り返すことが有効になる。

 

筋は、正しい位置(起始と停止の最短線上)にあってこそ、最大伸長によって正常ROMに寄与し、

また、効率的に収縮できるため効果的に筋出力を発揮できる。

さらに、筋は、関節運動時に、起始と停止の最短線上にあるべく、動きながら伸張、収縮する。

よって、筋の位置の修正と可動性を改善させることは、ROMだけでなく、筋出力も改善させることになる。

 

そもそも、関節を正しく動かすことが難しいのだが、

この技術について真剣に練習をしたことはあるか。

 

いや、表現が悪い。

 

「関節を動かす」じゃない。

「関節で動かす」だ。

 

「骨を関節で動かす」なんです。

それが「肢節を動かす」ということ。

 

運動側の骨の関節面が凸の場合、

その動かし方は、棒の一端を中心にして、棒のもう一端を持って、その棒の長さが半径の円弧を描くという、動きに似ています。

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こんな運動したことありますか?

練習しましょう。

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レビュー:体幹と骨盤の評価と運動療法

講義を聞いて、すぐにその先生の本を買ったのは、初めてかもしれない。
鈴木先生の講義は、僕の治療観に新しい風を吹き込む知見に富んでいた。

運動療法において、体幹筋のアプローチは重要である。しかし、体幹筋のアプローチの方法は、セラピストによって大きく異なり、確立されていないと言わざるをえない。(中略)そのような状況を変えるためには、体幹筋の性質や機能を理解することが重要となる。 本書より引用】

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本書では、体幹筋の機能が、解剖学、運動学、筋電図学的事実から述べられ、さらに、それを踏まえた運動療法の工夫について提案されている。
私の身体操作探究と運動療法に大いに役立った。


本書(鈴木先生)の優れている点として、

・筋の機能、運動と現象の表現がスマート。

・筋の機能について、まず、解剖学、運動学の観点から、普通に推察する。

を挙げさせていただきたい。

 

筋の機能は、求心性収縮なのか、遠心性なのか、静止性なのか。

関節の「運動」により、身体部位の動き、すなわち「現象」が生じる。

このように、表現を明確に徹底することで、体幹・骨盤の現象における体幹筋の機能を理解する、という本書の目的が達せられている。

 

現象において、どの関節がどんな運動をするのか、あるいはしないのか、という姿勢・動作分析の上で、

その関節がその運動をすることから、その関節のその運動に働く筋の機能について推察することができる。

このときに、必要なのが、筋の機能について、まず、解剖学、運動学の観点から、普通に推察する、ということである。


普通に推察、とは、できそうでいて、なかなかできないことである。

仙腸関節に働く剪断力と、それを防ぐための筋活動とか、
従重力に関節が運動するならば、短縮位になる筋は活動せず、伸張位になる筋が遠心性の制御をする、というのは、この本を読まなければ、私は一生気づけなかったかもしれない。


そして、このことを知ったおかけで、私は身体操作探究を飛躍的に進化させることができた。
さらに、その気づきを、私の身体操作探究の恩人に相談したところ、
遠心性制御もなるべく小さくするアライメントを探究する重要性について教示していただけた。
現在、もう少しで、正しい「起勢」ができそうである。


話を本書に戻すと(厳密には身体操作探究とは関連するのだが)、
本書は、健常者を対象にした体幹筋の機能の筋電図研究から得られた知見から、患者への運動療法を提案している。

患者とは、健常者の身体機能を一時的に喪失しているのであるから、
動作能力回復にあたっては、「現象」において健常者が示す体幹筋の機能を賦活すればいい、という論理は間違いないと思う。

しかし一方で、もう一つの視点で患者を定義するとどうだろう。
患者とは、健常者よりも身体機能が低下しているのであれば、
動作能力の(再)獲得にあたっては、健常者よりも効率的な「動き方」と、その現象に必要な体幹筋の使い方を学習させる、というのはどうであろうか。

たとえば、宮本武蔵の姿勢。

f:id:masuiPT:20180817184817j:plain【島田美術館蔵 宮本武蔵像】

私なりの分析では、大腰筋を働かせたままで、腸骨筋を従重力に緩めているために、
L2を中心とした腰椎前弯と股関節屈曲が生じ、
姿勢保持のための脊柱筋の活動を最小限にするために、
腰椎より上の脊椎・胸郭をまっすぐ立てており、
大腰筋の反応を落とさず、殿筋や内転筋が過剰に緊張しないように、
脚の幅は腰より広げずに、足先もまっすぐ前を向かせ、仙骨を少し後傾させている。

姿勢保持のために硬く収縮している筋肉がなく、ゆらゆらする姿勢ではないかと推察できる。


私は、太極拳を学び、患者に還元できるように日々、身体操作を探究しているが、
科学が足りないし、表現力もお粗末である。

本書に参加されたような方々が、身体操作の達人の動きを科学し、これを賦活、学習させる運動療法を開発されたなら、世の多くの身体に障害を有する方の動作能力を向上させてあげられるのではないかと、わくわくさせられた。

理学療法士たちには、ぜひご一読いただきたい。

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姿勢制御には大腰筋を使えるように制御することが重要

やった!

やっと、わかった!

今日、社交ダンスの元日本代表の方に、基本ステップを教えてもらってる中で気づきました。

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姿勢制御の極めて重要なポイント。

それは「大腰筋」!

ずっと、キーワードとしては、いろんな方から助言をもらってましたので、

言葉として、なんとなくの必要性は分かってましたが、

僕は、ちゃんとわかってはいませんでした。

きちんと使えるようになると、「姿勢制御には大腰筋が重要」という表現ではなくなります。

「姿勢制御には大腰筋を使えるように制御することが重要」なのです。


かと言って、今までの私見が全くの間違い、ということではありません。

制御の意識として重視するポイントが間違っていたのです。

例えば歩行時の片脚支持期に、骨盤の側方傾斜を制御するのは、間違いなく大腿筋膜張筋を中心とした股関節外転筋です。

そして、その大腿筋膜張筋の活動を誘因するのは、スパイラルラインからの内腹斜筋です。

参照:骨盤角度で変化する大腿筋膜張筋の役割の違いこそが、西洋・東洋の歩行パターンの違い - 理学療法と身体操作の気づきメモ


しかし、ここからが重要なのですが、

感覚の意識として注視するのは大腿筋膜張筋ではない、ということです。

股関節外転筋の活動は骨盤の側方傾斜を制御するだけだからです。


感覚の意識として注視するべきは、「大腰筋を使えるように制御すること」なのです。

僕は、社交ダンス元日本代表の方に、基本ステップを教えてもらってる中で言われました。

「足幅が広すぎる」
「それでは脚の外に重心がかかる」
「大事なのは脚の内でコントロールすること」

 

つまり、(最初の内は)足幅を狭めにすることが、脚の内で重心を制御できるようになるポイントであり、

それこそが、「大腰筋を使えるように制御すること」につながるのです。


大腰筋を使えているときは、腸骨筋も使えています。

大腰筋は腰椎を制御しながら、

腸骨筋とともに、歩行時の立脚後期の股関節伸展を制御します。

この状態が、骨盤、体幹の安定に大きく寄与するとともに、

歩行、立位動作の制御が格段に効率的になります。


分かりやすく言うと、

歩行立脚後期に、骨盤・上体を安定させたまま、股関節伸展での加速が容易にできます。


大腰筋を使えているときの感覚は、
L2が前に出て、
体幹がまっすぐ鉛直に伸びて、安定してるのに、
脊柱筋は楽で、
頭の位置も整えやすく、
肩も軽くなります。

 

「大腰筋を使えるように」「脚の内で重心を制御する」感覚は、
僕の恩人の濵崎先生の著書の表現を借りると、
丹田にあるボールを転がす」イメージです。


まさか、社交ダンスからヒントを得られるとは思いませんでした。

社交ダンスも学んでいけば、運動療法に応用できそうです。

ほんとに、身体操作探究は面白い!

 

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レビュー「医師が発見した 認知症バイバイ体操」

今回は、私の恩人でもある濵崎先生の著書「医師が発見した 認知症バイバイ体操」のレビューです。

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まず、僕的には、なんと言ってもタイトルがイイですね。


そして、後半の序盤に述べられている「運動を行う意味」が秀逸。

運動、とくに武術などの身体の感覚を意識した体操は、脳の多くの領域の各機能をフル活用すること。

逆に、認知症とは、脳の萎縮と、脳の興奮の低下によって、運動のイメージや、イメージした運動を惹起するための情報伝達が上手くいかなくなる。
それこそが、認知症による運動機能低下の本質であることについて、わかりやすく図を用いて解説されています。

脳の萎縮、脳の興奮の低下は、脳血流の低下によるところもあり、その予防のためにも、上述のような体操を推奨したい、というとこが主旨になっていますね。


私が遭遇する認知症患者の運動機能の臨床像も、動作が緩慢(遅い)、ふらつく、動きを間違えたり、失敗したり、動けなかったり、です。

これに対して、私は、身体図式を整える治療をして、自己定位を再構築していく運動、動作練習をします。
(身体図式や自己定位に関する説明は、ブログを参照してください)

知覚運動循環とは何ぞや? - masui PT のあれやこれや

 

私が治療を進めていく上で注目しているのは、「貌(かお)」です。

顔つきが変わっていきます。

我に返り、品性が戻ってくる、と言えますね。

治療後、我に返った患者さんに、「自分は今まで何をしていたんですか?」と聞かれたこともあります(笑)


さて、話を本のレビューに戻して、
本の主役でもある「体操」についての感想です。

長年、武術の鍛錬と身体操作の探究をされてきた濵崎先生が患者さんに実践している体操、ということもり、とても導入しやすく、かつ効果的なものと思います。

 

わがままを言えば、濵崎先生も強調されている「股関節の感覚」「股関節で立位運動を制御する感覚」をつかみやすくする、準備運動が欲しかったなぁ、と思います。


もちろん、濵崎先生が本で紹介する体操を継続していけば、徐々につかめてくるものではありますが、即時効果を欲しがる読者には、一次的にそこを高める準備運動があってもいいかな、と思いました。

 

実際、「股関節の感覚の促通」をセルフエクササイズでやるのはとても難しいです。
私が習っている太極拳の先生も、そこを伝えるのには苦労しておられます。
くりかえしになりますが、もちろん、繰り返し体操や太極拳を継続していれば、つかめてくるものではありますが、
そのとき、ちょっと、パッと感覚を高めれればな、と悩んでいます。

 

今日は、ここまでです。

では。

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骨盤角度で変化する大腿筋膜張筋の役割の違いこそが、西洋・東洋の歩行パターンの違い

最近、姿勢制御と身体操作についての気づきが止まりません。

(きっかけは、鈴木先生の講義かな?)

 

とりあえず、現段階の知見を整理しておきます。

内腹斜筋横行下部線維と大腿筋膜張筋のつながり。
そして、その大腿筋膜張筋の役割が、骨盤の前後傾で変わること。
このことが、東洋人の歩行などの同側パターンを作っている要因ではないかと考えます。

 

まず、以前にも述べた、効率的な動きのベースについて、
体幹の前額面と、骨盤・支持面の水平面で∞を描く力の流れ」とは、
筋、筋膜の連結の経線(アナトミートレイン)の一つでもある、スパイラルラインが描く流れと似ています。

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それは、板状筋→(対側)菱形筋→前鋸筋→外腹斜筋→腹直筋鞘→(対側)内腹斜筋→大腿筋膜張筋→腸脛靭帯→前脛骨筋→第1中足骨底→足底→腓骨筋→大腿二頭筋→坐骨結節→仙結節靭帯→脊柱起立筋→後頭骨稜、となっています。

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(スパイラルライン:アナトミートレイン 徒手運動療法のための筋筋膜経線)

 

この中で、注目したいのは、内腹斜筋と大腿筋膜張筋です。

立位時同側下肢への荷重時に働く内腹斜筋の横行下部線維は、骨盤の安定に重要です。

そして、その内腹斜筋の活動に連動して、働く大腿筋膜張筋は、骨盤の前後傾で、その役割を変化します。

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西洋人の(教科書的な)アライメントでは、骨盤の安定のための股関節外転筋は中殿筋になりますから、大腿筋膜張筋は、股関節屈曲(遊脚)に働きます。

しかし、東洋人の後傾した骨盤(仙骨)では、大腿筋膜張筋の働きは、荷重側の骨盤(立脚)を安定させますので、遊脚下肢は、上述のスパイラルラインにおける肩甲骨周囲筋(菱形筋、前鋸筋)と同側の下肢になります。

すなわち、これが、東洋人の歩行などの同側パターンになるわけです。

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実際には、同側の手と足が同時に前に出るのではなく、
感覚的には、同側の鎖骨と股関節が連動する感じです。

実際に、全身のコンディションがちゃんと整ってる状態で、この動きができると、
後頭骨稜に心地よい刺激をステップの度に感じることができます。

たぶん、この刺激は、脳にとっても良いものだと思います。

とりあえず、今回はここまでです。

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学会発表を終えて

大阪学会で発表を終えたので、①研究内容と、②発表を終えて得た事について述べます。

「内部疾患急性期治療後の起立、歩行の安定性低下の要因となっている関節可動域とアライメントの問題」というタイトルです。

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①研究内容について

私は、今の職場に勤めて4年半になる。当初は、慢性期機能のカラーの強い病院であったが、私がリハビリテーション室を開設し、リハビリ入院を企画して以降、亜急性期機能を求めた入院患者が転院してくるようになった。

私は、当院で亜急性期患者の理学療法を担っていくうちに、急性期病院からスムースに退院できない患者のバリアンスについて、いくつかの傾向に気づいてきた。

その中で、起立、歩行能力の低下に影響する最も多い要素が、腰椎の可動性低下とアライメント異常である。

この発生要因は、先行研究からも急性期医療における「臥床期間とポジショニング」だと考えられる。が、これは急性期医療機関における理学療法で予防することが可能ではないかとも考える。

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実情として、急性期医療機関において、それに対する介入が不十分である原因については、急性期医療において発生する腰椎の問題が、その後の歩行能力の回復を阻害し、果ては退院を困難にしているという事実について知らないことが考えられる。

そこで、私は亜急性期医療機関の立場から、当院にADL向上を目的に急性期医療機関から転院してくる患者の起立、歩行能力を低下させている要因を改めて調査することにした、というのが今回の研究の実質的な背景である。

結果は、急性期治療後の歩行の安定性低下の要因となるROMとアライメントの問題には骨盤前傾・腰椎前弯可動域制限が多く、さらに腰椎後方偏位、足関節背屈可動域制限、股関節伸展可動域制限、または膝関節可動域制限も加わると起立動作も不安定になる傾向がわかった。

この研究結果は、亜急性期医療機関における治療選択だけでなく、急性期医療機関における予測的介入においても有用である点で有意義と考える。

 

③発表を終えて

発表当日は、私のお師匠さんの元上司の、私からすると大先生より質疑をいただいた。

その質疑とその後のお話の中で、『腹部の手術や急性期治療における安静臥床で生じる腰椎前弯・骨盤前傾制限と腰椎後方偏位は、その後の起立・歩行の回復の阻害になる』こと、『急性期の安静臥床時の理学療法で下肢だけ動かすのは介入として不十分である』ことについて、同意を得た。さらに、それに対する予防策について言及されたが、私は『(その)先生が提案する関節運動療法』がいいと答えた(笑)

 

関節運動療法とは、その先生が提案するコンディショニング法であり、私も大きな影響を受けている。

私は、日々の臨床実践において、関節運動療法の要素を用いたコンディショニングを行っている。

治療目標を「楽に歩ける」こととし、ROM治療から「歩きやすいコンディション」に整えることを目的としている。

私のコンディショニングにおける治療ステップは、

ⅰ)股関節運動で評価、

ⅱ)体幹のstability with mobilityの治療、

ⅲ)肢節のmobilityの治療、

ⅳ)下肢の屈曲パターンと、体幹の姿勢制御を促通、となる。

 

また、機会があれば、これについても院内などで研修を行えればと思っている。

 

本発表において、私の急性期医療で生じる問題の捉え方や、それに対する治療観について、少なくとも間違えていないことを確認できたことは、とても大きな収穫であった。

 

最後になったが、本発表の共同演者として先行研究や関連文献の検索に当たってくれたFくんをはじめ、助言をくださった診療部長、倫理審査において協力いただいたT氏に、謝意を表す。